『猪突盲進』-原田燎太郎

World as One Family by Work Camp

みんなおんなじ

台所おばさんのずるさ。耳が聞こえず、しゃべることのできないニコニコおばちゃんに厳しい表情でと手振りで何かを命令していたが、おれと眼が合うと急に笑顔になり「ゾウサン」(おはよう)と言う。

いつもニコニコしているばあちゃんが昨日のバーべQで遠くに持っていかれた丸太の椅子を肩に担いで自室の前に持って来ようとしていた。飛んでいって手伝った。ばあちゃんの顔にいつもの笑顔はなかったように思える。

結局、ハンセン病の村だからといってみんな助け合って仲良く暮らしているわけではなく、健康な人とまったく同じようにいじめがあったり、弱い者にはいばり、強いものにはへつらう。右目がなくなっているばあちゃんに話しかけるニコニコばあちゃんは無視され続ける。顔がひきつってた。

ニコニコばあちゃんが釘を拾っていた。指の第一関節がほとんどないので、うまく拾えない。台所おばさんも拾い始めた。横取りでもするのかと冷や冷やして見ていたが、台所おばさんは釘をニコニコばあちゃんんい渡そうとした。ニコニコばあちゃんは「あーあー」と低い声で言い、台所おばさんに釘をみんなあげた。少し救われた気分になった。

男子宿舎をソンドと掃除した。隣の村人のおっちゃんにちりとりを借りに行くと、彼は左脇にナタを抱え、手首のない右手のかさぶたを削っていた。ちりとりを奥から運んできてくれた。彼は両手両足がないため、左手に松葉杖を持つことができない。杖のもち手につけたひもを腕に引っ掛けている。両足は義足で、ガチャガチャ歩いている。ちりとりにごみを入れたら、おっちゃんは裏に捨てに行くと身振りで言う。右手のない腕にちりとりを引っ掛け、義足をガチャガチャ言わせながら松葉杖をつくおっちゃんの後姿は…。ボロボロになってもおっちゃんに死ぬ気はないように見えた。

泣いたけど、別れのつらさよりは、何もしてあげられなかったことへの涙かも。

男子宿舎の掃除の前、11時ごろ、韓国のキャンパーが村を去った。

朝飯が終わって皿を下げにキッチンに行くと、ソンソックがせかせかと働いていた。何となく居づらくてすぐに出た。HANDAの車が迎えに来て荷物を積み込み、みんな写真を撮り始める。住所やメールを交換している。おれはカメラを持ち出すことが何となくできなかった。ソンソックにも言いたいことが何も言えなかった。Thank youが精一杯だった。ドンヒョックにポンと方を叩かれると涙があふれ出てしまった。ソンソックに冷やかされた。女子部屋に招き入れられた。ふたりで何か話したかったのかも。でもファギュンが来てしまい、話せなかった。ソンソックはCDを聞かせてくれ、それをくれた。セヨンともドンヨルとも満足に別れることができなかった。

ソンソックと別れて泣くのはわかるが、セヨンやドンヒョックとの別れに際して泣くのはなぜか。おそらく、彼らがおれを慕ってくれたのにおれはたいしたことができなかった事にたいする無念さからだろう。チーヤンにもThank youしかいえなかったな…。