リンホウ到着
ついに、リンホウにいく。10時のバスで広州を発つ。
興奮する学生たち
アホみたいにでかいバックパック、CDのデッキが入ったバッグ、タコ傷削りの道具が入ったプラスチックのケース…。これらを背負って16時、潮州に着く。
バスの待合室でタバコを吸っていると、「アーっ」という奇声が聞こえる。師範学院の学生・マーク(朱佳栄♂)の声だ。彼は、クラスメートのジル(蔡潔珊♀)と一緒に迎えに来てくれた。
あいさつもそこそこに、彼らはリンホウを支援する団体の話を興奮して始める。
「ボクたちの新しい団体の名前は『愛心天使』ってゆうんだ。ポスターが明日には出来上がる」。
「これが私たちの新しい団体のチラシよ」。
チラシには「愛心天使」のロゴまでついている。
「水曜日には大学内でメンバーを募集するんだ」。
「木曜日には大学内の放送で僚太郎にインタビューするから、話す内容を考えておいてね」。
院長室を占拠
だんだんリンホウに近づく。砂埃がすごい。眼も口も覆わなければならない程のこの空気が懐かしく、心地よい。
「院長室を1年間使いなさい」。
リンホウ医院に着くと、職員の高さんはそう言う。2階の倉庫に泊まると言っても、彼は頑として譲らない。院長の意志だという。
いつも通りの曽さん
薄暗くなってきた19時ごろ、村に向かう。向こうから黒い人影が。村人の曽さんだ。
「アーっ、タイラン!」(僚太郎の『太郎』の中国語の読み方)。
「アーっ、曽先生!」(「先生」は「さん」の意)
抱き会って再会を喜んだ後、いつものように彼はタバコをくれる。変わったのは、帽子が赤のニット帽から黄色のナイキになったことくらいだ。
静かな郭さん
さらに行くと、長屋Bの窓から光がもれている。3人が引っ越したと聴いていたが、もっと多そうだ。
手前から3つ目の部屋の入口に若深さんが座っている。
「あーっ、ニーハオ、ニーハオ!この部屋はどうですか」。
「うーん、なかなかいいぞ」。
彼の奥の部屋は郭さん。部屋からゆっくりと出てきた。前回の再会のときと同じく、郭さんは静かにうなずく。
「新しい部屋はいかがですか」。
郭さんは親指を立ててニヤリと笑う。茶色の新しい茶器がおいてあり、静かにお茶を入れてくれた。
インチンとハグ
長屋Bのいちばん手前の部屋にインチンの姿が見える。
「ニーハオ、ニーハオ!」
爆音でラジオを聞いている彼女には大声で怒鳴っても聞こえない。ドアを開けて言ってみる、
「ライラ!」(来ましたよ!)
「オー、タイラン?ハオハオハオ!」
ベッドに座るインチンに寄って行くと、彼女の方から抱きついてきてくれる。
その物音を聞きつけた、隣の部屋のインインもインチンの部屋の入口に来て、ウッフッフ、と例の調子で笑う。
『苦難不在人間』
私が手紙、写真と一緒に送った本・『苦難不在人間』を蘇村長は読んでくれていた。この本は林志明というかつてハンセン病を病んだ人が書いた。ハンセン病を生きた彼の半生をつづったこの本は、蘇村長の精神の糧になっているという。
テレビの反響
劉さん宅に行くと、劉さんは何やらゴソゴソ探し始める。出てきたのは、1枚の名刺。「楊道明 画家」とある。村にやってきたという楊さんの名刺には、物々しい肩書きが並ぶ。「中華人民共和国體育運動委員会籠球裁判員、中華體育籠球協会会長、広東省潮州市老齢人書画研究会会長」。
どうやらこの画家は、中国のナショナル=バスケットボール=リーグのえらい人のようだ。しかも名刺の裏面には日本語が書いてある:「ワタクシハ、ヨウ トウメン デス」。
3月のキャンプ中、潮州の地元テレビ局がリンホウを取材した。この番組を見て、楊さんはリンホウを訪れたという。マークが彼に電話したところ、時間のあるときにまた村に来るということだ。
4人だけで…?
「水曜日の勧誘をするのは、ボクとジル、ラッキー(♂)、リョータ(僚太郎)だよ」。
4人だけ?「愛心天使」―リンホウを支援する団体―のオリジナル=メンバーが4人だけだって?耳を疑う。
「ローリー(馮英傑♂)は来ないの?」
「彼は足を捻挫したから…」。
「ナンシーは?」
「ナンシーって誰?」
英語名はときどき通じないことがある。
「ヤン=リィ(楊麗♀)」。
「さぁてね」。
「じゃあ、レオは?」
「レオって誰?」
「チャン=ジョンウェン(張増文♂)」。
「あー…。うーん、ちょっと問題があってね…」。
「問題って?」
「うーん、ちょっと複雑で何て言っていいかわからない…。別にケンカしたとかゆうことではないんだけど…」。
チャン=ジョンウェンというのは、師範学院内の英語を教えるボランティア団体のボスだ。彼は3月のキャンプではリンホウを支援する団体の設立に最も積極的だった学生の1人だ。
そういえば、中国に来る前、チャン=ジョンウェンとのメールのやり取りで気になることがあった。彼とヤン=リィは2700元(約4万500円)の寄付を集め、そのお金で村に扇風機を買おうとした。しかし、学部長からストップがかかったという。1台180元(約2700円)の扇風機を13台買うのはコストがかかりすぎるというのが理由らしい。
「問題ってさ、学部長とじゃね?」
「うーん、まぁ、そんなところだね」。
マークはそれ以上、何も言わない。