やっぱり、この部屋はいいなぁ
引越し
午前中、料理に必要なモノを村に持っていく。きのう蘇村長が院長に要請状を書いてくれたおかげで、村で料理する許可を得ることができたからだ(ただし、寝る場所は医院)。いつまでも医院にご飯を食べさせてもらっていてはダメだ。「お客さん」気分が抜けず、医院では落ち着くことができない。村にも拠点がないので、長時間村にとどまりつづけると疲れる。このままではリラックスできる場所、落ち着いて机に向かえる場所がなく、参ってしまう。
引っ越した先は、いつもキャンパーが使っている部屋。やっぱり、ここはいい。シュウシュウと掃除し、台所をつくり、勉強机とベッドを置く。すっきりとした部屋ができた。落ち着く。HANDAのニュースレターの翻訳がはかどる。村人との距離もいつも通りに近づいた気がする。
様子がおかしい郭さん
早速、郭さんと真夏日の午後、水くみに行く機会が訪れた。前回のワークキャンプで水道を設置して以来、郭さんは井戸ではなく水道で水をくみ、歩けない村人のところへ運んでいる。
郭さんは水道の水を箸くらいの細さにしぼり、水がバケツに落ちていくのをじっと見つめる。バケツが一杯になると水道を止めるが、木陰に座りつづける。
「もう行こうよ」。
そう言っても、ニヤリとして何度もうなずくだけだ。バケツをぶら下げた天秤棒を肩に載せ、やっと歩き始めたかと思うと、何でもないところで立ち止まる。
「行こうよ」。
そう声をかけると、ニヤリとして何度も小さくうなずく。
カンペイちゃん宅に水を届けると、郭さんは空のバケツを担いで蘇さんの家に向かう。水道とは逆の方向―水をくめなくなった井戸がある方向―だ。
「バケツ、空だよ」。
郭さんは立ち止まり、ニヤニヤするだけだ。
「行こうよ」。
何度もうなずきながら、郭さんは水道の方に歩き始める。
明日は行けない
0時前、医院の電話が鳴る。こんな時間に誰だろう。チュウエイ(医院の職員)は2階にいて電話に出られない。仕方がないので、受話器を取ってみる、
「ウェイ?」(もしもし?)
「○?%&×=?!#」
わかるはずもない。とにかく、チュウエイを呼ばねば。
「ト、ト、トンイーシャ」(ちょ、ちょっと待っててください)。
2階に上がるが、チュウエイは寝ている。「寝ている」って何て言うんだったっけなぁと思いつつ戻ると、電話は切れていた。ホッとして机に向かうと、再びけたたましい電子音が響く。
「ウェイ?」
「○?%&×=?!#」
「タ、タ、タースイチョウラ」(か、か、彼は寝てます)。
と、受話器からは笑い声と共に、
「ボクだよ、マークだよ!」
何だよ、チァロン(マーク)か。散々からかったあげく彼は明日、村に来られないという。彼らが来てくれることを村人と一緒に楽しみにしていただけに、痛い。半隔離の村で暮らしていると、外部の人間が無性に恋しくなることがある。ワークキャンプ開催を楽しみにしている村人の気持ちに少し近づいたかもしれない。ただ、彼らが村に住んでいる年月は数十年という長さだ。私はまだ1週間もたっていない。