布袋隊
「布袋隊」
蘇さんが「銀花茶」を出してくれる。茶色い液体を恐る恐る飲んでみる。甘い。
「砂糖、砂糖」。
蘇さんが日本語をしゃべっている。私には教えた覚えがない。
彼はタバコをくれながら言う、
「タバコ吸いたい」。
キョトンとする私に蘇さんは教えてくれる、
「子どもの頃に覚えたんだ」。
戦争中に日本軍人が使っていたからだ。日本軍が潮州にやって来た頃、蘇さんは9歳か10歳だった。彼が17歳の時に日本軍は引き上げていったという。日本軍の略奪の現場を見たこともあるのだろうか。
「ヨウア!」(そりゃ、あるさ!)
蘇さんは筆談で語り始める。当時、日本軍は潮州市内にいた。物資を十分に持っておらず、略奪にくることが多かった。彼らは「布袋隊」と呼ばれていた。人々のモノを奪い、袋に入れて持ち去るからだ。「布袋隊」が来たとき、蘇さんたちは逃げた。命が危険だからだ。戻って見ると、叔父の家が燃えていた。
「こんな話はする必要ない。おまえさん、本で読んだことがあるだろ。あれと同じだ。多くの人々が惨死した」。
蘇さんのハンセン病発病は、戦争による貧困が原因かもしれない。蘇村長も戦後に発病している。中国のハンセン病は戦争抜きに語れないのかもしれない。
「時代は変わったな。今おまえさん方は村にトイレ、家、水道をつくるんだから」。
蘇さんのフォローを素直に受け入れられない私に彼は言う、
「気にするな」。
ユメミル
松立さんがタバコを落とす。彼は両手でそれを挟んで拾い上げる。彼の指は短いか無いかのどちらかだ。松立さんは右手を器用に使ってタバコを左手の指の間に押し込み、再び吸う。
私は同じよく夢を見る。コンタクトレンズが川辺にたくさん落ちている夢だ。
(こんなにあれば、コンタクトを無くしても大丈夫だな)。
そう思いながら拾い集めるうち、それが魚のウロコであることに気づく。
松立さんは、手が自由になる夢を見るのだろうか。
SARS情報
蘇村長によると、広東省政府は昨日、広東省から香港への旅行、通商を許可したという。また、潮州のラジオはSARSに対して勝利を収めたと語ったそうだ。師範学院の隔離が終わる日も近いか。
今日のイタダキモノ
蘇さん:昼ご飯(インゲンのチャーハン)、夕飯(貝のニンニク炒め、野菜炒め(空心菜)、卵焼き、ゆで卵)
若深さん:レバー
カンペイちゃん:ヤマイモ