嵐のような一日
嵐のような1日が始まる。
テレビがくる
昼前、携帯電話にジエシャンがメッセージをくれる、
「今日の午後、邱学部長とテレビの取材陣が14時にリンホウに行くわよ」。
フライパンの火を消し、蘇村長に報告しに行く。
「テレビが?何しに来るんだ。(リンホウ医院の)院長の同意は得たのか。誰がインタビューを受けるんだ」。
険しい顔で立て続けに質問されても、私は答えようがない。とりあえず取材の目的と院長の同意の件をジエシャンに問い合わせつつ、カンペイちゃんにテレビのことを伝えに行く。カンペイちゃんの家族は彼がテレビに出ることに反対しているが、村長はカンペイちゃんがインタビューに答えてくれると思っている。
歓迎されないテレビ
寝ていたカンペイちゃんは、インタビューには答えないという。予想通りの答えだ。それ以上突っ込まずに、リンホウ医院に報告に行く。
リンホウ医院の職員にテレビのことを伝えると、彼らはすでに知っていた。少し前、院長から電話があり、取材に備えておくよう言われたそうだ。しかし、彼らは動こうとせず、メモを書き始める、
「文秀(蘇村長の名前)兄: 師範学院の先生とテレビが取材に来るので、準備をよろしくお願いします」。
医院から戻ると、村長はインタビューの原稿を書いている。話し掛けても今の彼には聞こえない。あと45分しかない。ジエシャンによると、師範学院の学生が扇風機を寄付しに村に来るので、邱学部長は学部の名誉のためにその様子をテレビに取材してもらいたいようだ。
SARS半隔離政策の終焉
14時半過ぎ、銀色の車がリンホウにやって来る。テレビの取材陣だ。それに続くワゴン車からは邱学部長が降りてくる。あいさつした後、彼は車に戻り、車を村の外に戻す。テレビカメラの撮影準備ができると、車はリンホウに入り直し、学部長と学生が扇風機、古着を下ろす映像を撮っていく。
師範学院のSARSによる半隔離政策は事実上、終わった。まだ公式発表はないが、学部長自らリンホウを訪れるくらいなので、ほとんど問題にならないだろう。
邱学部長(左)と蘇村長
プライバシー
荷物を下ろすシーンを取り終えると、学生たちは学部の旗を長屋Bに掲げる。黄色地に赤い文字が書かれた大きな旗をカメラに収めた取材陣は、誰もいない若深さんの部屋に入っていく。どうやら彼の部屋で扇風機を学生が渡す場面を撮るようだ。邱学部長とカメラマンは若深さんと村長を部屋に招き入れる。
ジエシャンに頼んで、撮影を始める前に若深さんと村長の同意を得るようにとカメラマンに言ってもらう。
「何の同意だ」。
そうカメラマンは吐く。カメラマンが学生の演技にNGを出し続ける間、私はその2つ隣の部屋のインインのところに行く。背中を向けていたインチンは私が入って行くとビクッとする。
「タイラン、タイラン(僚太郎です)」。
「オー、タイランか。フィルタからタバコが外れてしまってのう…」。
取材が嫌なら拒否するようにと彼女に言う。インインにも言っておく。
学生たちは学部の旗を長屋Bに掲げる
しまった…
学生のチャン=ホンダァ(♂)がカンペイちゃんに扇風機を渡し、彼と話し込む。と、いつの間にかやって来たカメラがその様子を撮影し始めてしまう。学生のチェン=カイ(♂)に言っておく、
「方さん(カンペイちゃん)の家族は、彼がテレビに出ることに反対しているんだ。放送するときは彼の同意を得てからにするよう、カメラマンに言ってくれ」。
「この番組はハンセン病の正しい知識を普及し、村のことを知ってもらい、多くの人の支援を得ることが目的だから大丈夫だよ」。
村人全員に扇風機を渡し終えた学部長と学生、その様子をばっちりカメラに収めた取材陣は賑やかに帰っていく。
村に静寂が戻った。
蘇さん(右)に扇風機を渡す邱学部長と学生たち
カンペイちゃん(左)とチャン=ホンダア(中央)を撮影するカメラ
村人の反応
「方さん(カンペイちゃん)、いいんですか。家族がまた反対しますよ」。
「いいんじゃ、いいんじゃ。アッハッハ…」。
カンペイちゃんは金歯を見せて笑う。
村長と2人ホッと一息ついていると、どこかに姿を消していた陸さんが村長の部屋に来る。蘇村長は興奮気味にテレビと学生の様子を伝える。
「ジエシャンやチァロンが卒業した後は、あの学生たちが村に来てくれるそうだ」。
無邪気にはしゃいでいた学生たちを、村長は好感を持って見ていたようだ。
インチンはテレビをどう思っていたのだろう。
「タイホー!」
タバコのフィルタを持った手を突き出しながら、インチンは元気に言う。
*
いつの間にか、私の方が保守的になっていたのかもしれない。インチンとインインに取材拒否するように言い、カンペイちゃんの映像が放送されることを恐れた。本来ならばテレビ取材は、リンホウの存在を多くの人に知ってもらういい機会だ。しかも、村人自身が取材に同意している。恐れる必要はないはずだ。
ここでの暮らしが長くなり、テレビ取材に対する見方が変化した。今回の取材陣への印象は、よそ者が土足で上がり込み、村を荒らし回って帰って行ったような感じだった。リンホウとリンホウの人々が、視聴率稼ぎの道具にされているような、学部の宣伝の材料にされているような気がしてならなかった。
いや、どんな目的が背後にあろうとも喜ぶべきことなのかもしれない。村の外の人々が、テレビが、学部が、学生がリンホウに関心を持っていることには変わりがないのだから。フクザツな気持ちだ。
サンダル
ふと気づくと、インインがサンダルはいている!ただ、タコと装具の位置がまったく合っていない。失敗だ。つくり直そう…。
今日のイタダキモノ
曽さん:夕ご飯(焼酎、卵焼き)
郭さん:インゲン