やさしさ
要らんと言ったら、要らん
インインのサンダルを持って蘇さんのところに昼ご飯を食べに行く。一度はサンダルを断った蘇さんも、実物を見れば気が変わるかもしれない。筆談で説得にかかる。
「このサンダルは足の裏のタコ傷を治すためのものなんです。この図を見てください。この黄色い装具がタコに加わる圧力を減らすんです」。
「マイ」(要らん)。
「もし蘇さんが面倒でなければ、つくらせてください。いつもゴチソウしてもらうばかりでボクは何もしていませんし」。
「マイ」。
「ちょっと試させてくださいよ。蘇さんのタコに合わせて装具を削るんですよ。履き心地が悪かったら捨てちゃっていいですから」。
「マーイ」。
「タコ傷を放っておくと悪化しますよ。心配です」。
「アイチュアーイ、マイチユマーイ!」(要ると言ったら要る、要らんと言ったら要らん!)
蘇さんは歩けないので要らないという。しかし、座ったまま移動するときにも、タコ傷に体重がかかっている。このサンダルを履けば傷はよくなる可能性がある。だが、本人の同意なしではどうにもならない。
やさしさ
薄暗くなってきた夕方、許さんと飲茶タバコをする。
ランプの灯りを頼りに黙々とお茶を入れる許さん。ラジオからはクラシックが流れる。
と、彼は懐中電灯を照らし、竹の棒を引っ張り出す。それを折ろうとする。部分的に麻痺した指でグリグリと竹をねじる。手に傷をつくりそうなので、代わりに私が折る。
今度は、折れた竹をナイフで割こうとする。暗く光るランプのもと、危なっかしくナイフを扱う。
竹ひごをつくった許さんは、また懐中電灯をつけ、綿を少しちぎり、竹の先に巻き付ける。そして、酢のビンをランプの光にかざし、残り少ない酢にその綿棒を浸す。
許さんは、足をかきむしる私の手を抑えると、黙ったまま、蚊に食われた個所に酢をつけてくれる。酢の冷たさを感じると、痒みが引いていく。私の足は虫刺されだらけだ。ゆっくりと、丁寧に酢は塗られていく。足とその上を動く綿棒を見て、胸がキュッと痛くなる。
今日のイタダキモノ
蘇さん:昼ご飯(インゲンの焼きそば)