「患者」
「患者」
薄暗い部屋で新聞を読んでいる蘇村長の姿が、朝日の逆光で絵になる。
「ちょっと見てみろ。東京の記事が載ってるぞ」。
料亭が紹介されている。着物を着たキレイな女の子が、彩り鮮やかな料理を運んでくる。鉄板焼き、寿司、天ぷら、…。
「東京はいいところだな…」。
タバコの煙を吐きながら村長は言う。東京は無理だが、潮州の街に観光に行くことを提案してみた。村人が望めば、HANDAが金銭的に支援してくれる。
「ハンセン病患者の我々には不要だ」。
村長は不機嫌にそう書く。
「患者」。広辞苑(岩波新書)によると、「病気にかかったり、けがをしたりして、医師の治療を受ける人」とある。村長は治癒しているのだが。
「以前、孫さんが公用で外出したときのことだ。同伴した医院の職員は食堂で飯を食ったが、自らの意思で孫さんは外で食事したんだ。もめ事を起こしたくなかったからだ」。
孫シュウシュウがハンセン病を病んだ経験を持つことは、外見から判断できない。にも関わらず、彼は食堂に入らなかったという。
タバコをふかす松立さんは村長と私のこのやり取りを笑う。
「タイランよ、寝ぼけたことを言うな」。
そんな笑みだ。
リンホウの人々が持つ、自らへの偏見を取り除くにはどうしたらいいのだろうか。
負担
インインは毎日、若深さんとインチンのご飯をつくる。私のをつくってくれることも多い。今晩―と言っても16時半だが―もゴチソウになる。
毎回、若深さんに呼ばれてインチンの部屋に行き、インチンと2人で先に食べ始めるようにと言われる。インインと若深さんは遅れて、インインの部屋で食事をとる。
食後の一服の頃、残った料理をいつもインインの部屋に持っていく郭さんが来ない。代わりに私が運ぶ。
「ごちそうさま!おいしかった!」
そう言いながら、インインの部屋に入る。そこで目に入ったのは、若深さんの後ろ姿。その向こうに見えるのは、おかずが平らげられた小さな空の皿と、ご飯だけが入った大き目の食器。
「若深さん…!ご飯だけ…?」
若深さんは笑って「ホーチャ」(うまいぞ)と2度言う。
遠慮せず食べろという村人の言葉をどの程度まで間に受けたらいいのか、わからない。次回からは自分の分を取り分けて、すぐにインインの部屋に持って行こう。