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『猪突盲進』-原田燎太郎

World as One Family by Work Camp

ネコはうまいぞ

パタン、パタン、…。独特な足音。ハンセン病の治療が適切になされなかったために足の神経が麻痺し、下垂を起こしているからだ。

そんな若深さんの足音を聞きながら、インイン・インチンが以前に住んでいた長屋に向かう。そこには彼女たちが飼っているニワトリがいる。新しい長屋Bではニワトリを飼えないからだ。

隣の部屋にはネコがいる。いかにも子ネコらしい鳴き声が聞こえてくる。

「ミーミー、ミーミー」。

若深さんは裏声を出しながら子ネコにも残飯をあげる。その様子を、親ネコが心配そうに見ている。

「ホーチャ、ホーチャ」(うまいぞ)。

若深さんは指のほとんどない手で親ネコを指す。「中国人は机と椅子以外の四つ足のモノを何でも食べる」という話をたまに聞く。子ネコが8匹生まれたのでネズミ捕り用のネコは充分足りる。親ネコは晩ご飯になるようだ。

絶対にお茶を飲まない

名前を聞いていないので、仮に「ソウタ」と名づけよう。大学で仲のよい友達に似ているからだ。「ソウタ」は貴州省出身で、蘇さんの隣に住み、近くの採掘現場で働いている。本物のソウタに劣らずいいヤツだ。しかし、決して蘇さんのお茶を飲まない。

今日も蘇さんの家に遊びに行き、お茶を出してもらう。台湾の人参茶を少し混ぜたそのお茶は後味が甘く、おいしい。玄関先には涼風がそよぐ。ロウソクの明かりの下、蘇さんととりとめのないことをしゃべる。

「いま鳴いているあのカエルは潮州語で何ていうんですか」。

「あれはティーグー(地牛)だ。『アーイ、マーイ(愛亜勿)』(いるか、いらないか)と言っているように聞こえるだろ」。

「…アーイ、マーイ」

私がティーグーに合わせてそう呟くと、隣でタバコを吸っている松立さんが高い声で笑う。

今日も「ソウタ」はお茶を断り、部屋に入っていった。ベッドに横になっているのが半開きの向こうにドア見える。蚊帳の中でウチワをパタパタさせている姿がランプの灯りに照らされている。

村の農業

孫さんと陸さんは後遺症がほとんどなく、元気な60代だ。2人がリンホウの農業を引き受けている。といっても、村人が食べるためではない。収穫から得た収益は地代として医院に納める。それは医院の経費に充てられる。農業器具、農薬、肥料などすべて村人の自己負担で、豊作でない限り村人に利益があがることはほとんどないという。場合によってはマイナスになることもある。