『猪突盲進』-原田燎太郎

World as One Family by Work Camp

潮州語は難しい

旧日本軍

「『苦難不在人間』には日本人が出てくるぞ。えーっと、どこだったかな…」。

ハンセン病快復者・林志明さんの著作を3分の1近く読み終えた蘇さんが繰るページの合間に「鬼子」という文字が見える。ドキッとする。

謝る私に蘇さんは笑いかける、

「日本人にも、いいヤツがいれば、悪いヤツもいる。中国人にも、いいヤツがいれば、悪いヤツがいる」。

このあたりには日本軍が駐屯していたという。

「世界和平就好」(世界が平和であれば、それはいいな)。

当時9歳だったという蘇さんはそう書く。彼は日本軍をどう見ていたのだろうか。

「過去个事」(昔のことだ)。

蘇さんはそう書いてカワイイ笑顔で愉快そうに笑う。

「ボイ」と「ボーイ」

蘇さんと飲んでいると、許松立さんが緑色のバナナの房を抱えて帰ってくる。ふだん村人が食べているものよりも太くて長い。売り物なのだろうか、それとも自分たちで食べるのか。私は覚えたての潮州語で訊いてみた、

「『ボイ』ヨウ、ジコヨウ?」

2人は大爆笑する。潮州土音は異常に難しい。中国の共通語・普通話は人工的な言葉なので、発音しやすくつくられているそうだ(とはいっても難しいが)。

「『ボイ』はここのことだ。『ラン』とも言うがな」。

そう言って蘇さんはアノアタリを指差す。

発音とは恐ろしいものだ。「売る」は「ボイ」ではなく、「ボーイ」だという。

「ショウピェン」と「ショウディエン」

だんだん暗くなってきた。電気がない蘇さん宅ではランプ・ロウソクの生活だ。

蘇さんが部屋の奥で何かゴソゴソやっている。

「ショウピェン、ショウピェン」。

私は「ショウディエン」(懐中電灯)を蘇さんに要求されたと思い、彼を照らす。と、また2人は大爆笑。蘇さんは「ショウピエン」(小便)を尿瓶にしようとしているところだった。