端午節
今日は農歴5月初5日、端午節。村人は興奮気味だ。陸さんがチマキを買ってきて、お祭り気分が盛り上がる。対照的に、私は昨日からの頭痛が辛い。
蘇さんの弟
蘇さんはショットグラス―といってもプラスチックの薬か何かのケースだが―に焼酎をなみなみと注ぐ。普段、ここで昼ご飯を食べるときは酒を飲まない。
「今日は端午節だからな」。
蘇さんは浮かれ気味だ。今日の料理は鴨肉、ツミレとウリのスープ、から揚げ。いつもより豪華だ。陸さんが買ってきたのだろうか。
「いや、弟が持って来たんだ。ほれ、そこにいるだろ」。
気にもとめなかったおじさんが蘇さんの長屋の近くにいた。真黒に日焼けした細身の彼は、蘇さんにまったく似ていない。
弟さんは私にタバコをくれる。
少し経って振り返ると、彼はもういなかった。
「弟はメシをここで食わないんだ」。
蘇村長の甥
酒が回り、帰って寝る。気づくと16時半だ。蘇さんと夕ご飯を約束している時間だ。
外に出ると、軽トラックが止まっている。郭さんが蘇村長の家を指差す。
村長の家には色白の大きな男がいた。身なりはこぎれいで、ベルトには携帯電話がついている。
「弟の息子だ」。
炊事中の村長にそう紹介された彼は、タバコをくれる。見たことのない高そうなタバコだ。4月27日にも村長の甥だとい人が来ていたが、彼とはまた別の人だ。こちらの甥は大声で村長と話す。
曽さんがやってくると、彼は親しげにあいさつし、タバコを差し出す。曽さんの声と村長の甥の声が部屋に響き渡る。いろいろ話を聴きたいが、蘇さんのうちに向かう。
誕生日は祝わない
蘇さんと酒を飲み、満腹になったあとは、お茶を飲む。2人に誕生日を訊くと、蘇さんは8月12日、松立さんは5月19日だという。
「何でそんなことを訊くんだ。ケーキでもくれるのか。見たこともないがな」。
そう軽く言う蘇さんに今年は送ると約束すると、松立さんと2人で彼は声を上げて笑う。蘇さんは「謊」と書く。辞書には「うそ」とある。
「本当は誕生日がいつか知らないんだ」。
そう言い、2人はまた大きく笑う。
「我々ハンセン病の病人はな、誕生日は祝わないんだ」。
今日のイタダキモノ
蘇さん:昼ご飯、夕ご飯(鴨肉、ツミレとウリとブタの皮のスープ、から揚げ、貝の塩漬け、焼酎、ご飯)